大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(う)2083号 判決

被告人 森田武雄 外三名

〔抄 録〕

所論は、仮に、被告人森田の受供与罪の成立が認められるにしても、原判示第七の二の現金二万円については、被告人森田においてこれを収受した当時自分の金と区別してしまつておき、本件で警察の取調を受けたとき、警察官に任意これを提出しているのであるから、同被告人から金二万円を追徴した原判決には審理不尽の結果、事実を誤認し、法令の適用を誤つた違法があると主張するものである。

よつて判断するに、被告人森田の司法警察員に対する昭和四二年一月七日付(後綴りの分)、同月八日付各供述調書―第一〇冊、四九八丁、五一五丁―および当審における事実取調の結果に徴すれば、被告人森田は、本件容疑で警察官である石井金蔵の取調を受けるにいたつた昭和四二年一月七日同警察官に対し、原判示第七の二の供与を受けた現金二万円は、そのまま自宅の茶だんすの引出しに入れておいた旨所在場所を図面に書いて述べたので、同警察官は、これにもとづき被告人森田方に赴き、その妻から同被告人の図示した場所に他の金員とは区別して入れてあつた現金二万円の任意提出を受け、これを領置し、その後右現金は検察官の手元に保管されるにいたつたこと(右は当審で検察官から証拠調の際提出され、当裁判所がこれを押収した。)が認められる。そして被告人森田の検察官(野口祐三郎)に対する昭和四二年一月一一日付、同月一六日付各供述調書―第一〇冊、五四〇丁、五五一丁―および証人野口祐三郎の当審における供述によれば、同被告人は、検察官に対し、最初、「自分がもらつた金は、一応茶だんすの抽出しにある自分の金と一緒にして、翌二日私方の母屋の普請にきていた浮島の左官の松浦某の手間賃に支払つた七万六千円の一部にあてた」旨述べたので、検察官の指示により警察官が右松浦を取調べたところ、被告人森田の言うような支払の事実がないことが判明したため、検察官が、この点につき、さらに、被告人森田を追究取調べたところ、同被告人は、「松浦に対する支払にあてたと述べたのは嘘で、実際は、父の森田長平に渡したものである、実は三一日の大晦日に父が木内商店に貸しておいた金が同商店から二万三千円入つたところが、大晦日の支払に金が足りなかつたので父のところへ持つてきた金を使つてしまつた、しかし父は、そのころ沼崎病院に入院していたので父の金を一応使つてしまつたが、一月一日の晩福智から二万円が入つたので、翌二日父のところへ妻と見舞に行く際この二万円と別の金三千円とを加えて二万三千円として持つて行き、木内商店の方から金が入つたと言つて父に渡した、したがつて福智からもらつた金は、このように事情を知らない父の方へ廻つてしまつた」旨述べるにいたつたことが認められる。しかし、被告人森田が検察官に対し、最初本件の現金(原判示第七の二の供与を受けた現金)を前記松浦に対する支払にあてたなどと、すこし調べれば、すぐわかつてしまうようなうそをなぜ述べたのか、この点については、調書になんの記載もないし、また、野口証人の供述によつても、やはりその理由が不明確である(もち論、同被告人の心情として、本件のような事案について、自己の父親―しかも、病気で入院中の―を巻きぞえにするようなことは、極力避けたかつたのではないか、ということは、一応考えられるが、これは、また、単に推測の域を出ないものである。)こと、同被告人がのちに検察官に対し述べるにいたつた三一日の大晦日に木内商店から入つた二万三千円を当日の支払にあてたということについては、そもそも当日木内商店から右のような金の入つた事実があるのか、仮に入つたとしても、どのような支払にあてたのか、その裏付が全然ないこと、もし、本件二万円の現金が、実際、同被告人の父親に渡されたものとすれば、逆に、こんどは、同被告人の図示した場所にあつたという一万円札二枚は、いつ、どのようにしてそこに入れられたものであるか、という疑問が生じてくること、警察官および検察官において前記の領置にかかる現金を同被告人に示してその供述を求めた形跡が調書上全く見られないばかりか、せつかく領置してあるこの現金につき、原審判所に対して証拠調の請求をし(その立証趣旨をどのようにするかは、もとより検察官の裁量にまかされているわけであるが、)、これを法廷に顕出して、それに対する被告人森田の供述を聴く機会を裁判所に提供する措置もとられていないこと、野口証人の供述によれば、同証人は、被告人森田が本件の現金につき警察官に述べたことは、単なる一介の弁解に過ぎないと見て、その真否について必ずしも十分な資料の収集をしておかなかつたのではないかとの感じももたれること等の諸点を総合して考えるとき、本件二万円の現金についての被告人森田の事後における措置に関する限り、同被告人の前記各検察官調書(一月一一日付の分はもち論、同月一六日付の分についても)の信用性に疑いがあるといわざるをえない。たとえ、同被告人の父親である森田長平の司法警察員に対する供述調書―第九冊、二八四丁―中に、「昭和四二年一月二日に被告人が病院へ来て、『貸した金が入つたからおいていく。』といつて白い半紙のようなものに包んだものを自分の枕もとにつつこんで帰つた、あとで、その金を調べたら、一万円札が二枚くらいと一、〇〇〇円札が三枚くらい置いてあることがわかつた。」という記載があるからといつて、これから直ちに右二万三千円のうちの二万円は、本件の収受にかかる現金であるという被告人森田の検察官に対する供述が真実であるとは断定し難く、その他右供述を裏付ける証拠は何ら存しないのであるから、むしろ本件の現金は、費消等もされずにそのまま前述のような経過で警察官に提出され、領置されるにいたつたものと認めるのが相当である。

以上の次第で、被告人森田から右領置にかかる現金二万円を没収すべきであるのに、これをしないで、同被告人から金二万円を追徴した原判決には判決に影響をおよぼすことの明らかな事実の誤認および法令の適用の誤があるものといわなければならない。論旨は理由がある。

(樋口 浅野 井上)

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